「品質」について考える
モノづくりの原点と品質管理の二つの潮流
企業支援G 伊澤 俊夫
第1章 モノづくりの原点と品質管理の二つの潮流
第二次世界大戦の敗北で、日本の社会は近代的な技術分野はほとんど壊滅的な破壊を受け、もともと資源の少ない島国であった為、経済はどん底の状態となりました。食を確保するために、国民は時間を惜しまず、戦勝国 特にアメリカ合衆国の要求する商品を作り続け、繊維製品その後の電気用品、自動車等とアメリカ社会の大量生産・大量消費に対応したモノづくりに取組みました。
一方、国内の需要に答えるために、多くの企業活動が生まれ市場の要求に答える商品の生産がはじまり、日本のモノづくりは、①職人的技術による多品種生産と②欧米特にアメリカの大量生産によるコストを追求する高効率生産の潮流が出来てきました。
1-1 職人的品質管理(良品追求の伝統)
市場の狭い地域のモノづくりでは、顧客の求める多彩な要求に答えること。作り手と顧客の顔が見えることで、モノに求められる品質は相互の信頼を形にすることで、そこでは、理論・理屈を超えた正に職人的良品追及が求められています。
* 熟練技能・感覚に頼る品質の世界
〇 顧客満足度が高い
✖ 多品種・少量生産により個別対応が多く原価が高い
△ 人材育成・職人技術の伝承が鍵
*手仕事・少量生産における個別対応
〇 規模を前提としない経営 モノづくりの自働化で変化
✖ IT・AI技術の活用
△ リスキル(自働化による余剰人員の再配置)
1-2 戦後の工業化と確率的品質管理
戦後のアメリカの国家成長は、驚異的なものでした。広大な国土で豊かな資源と自由をもとめて、世界中から多くの人材が集まり、衣食住全ての分野で大量生産、消費が求められました。モノに対する価値観の違いがあり、そこで「品質」についてもう一度考えてみました。
私の経歴では、学校教育で直接「品質」について学んだ記憶もなく、大学では機械工学部で自動制御を専攻しモノづくりの自動化を学びましたが、そこでも「品質」について考えることはありませんでした。会社に就職後、生産技術の開発に取り組む中で、製品のバラツキが客先との間で問題になることを経験しました。
工場では、多くの材料工程から必要な材料を集めて組立、成型するもので、最終的には客先でジグに取り付けて性能評価を行うものでした。製品の出荷前の社内検査では良品であったものが、返品されてくるケースがありました。ここで初めて品質問題にかかわることになりました。
◆「品質」とは何か
品質とは本来、「顧客との約束を満たすこと」であり、取引条件(仕様・性能・納期など)によって定義される契約的品質(明示的品質)と、使用者が体験的に感じる感性的品質(暗黙的品質)の二層構造をもっています。
- 契約的品質(明示的品質):
取引時に定義される仕様書・図面・規格・試験基準などで定量的に決まる品質。国際規格(ISO・JIS)や顧客要求仕様が基礎。 - 感性的品質(暗黙的品質):
使用者が実際に製品を使用する中で感じる満足度や安心感、快適さ、さらにはデザインや触感といった数値では測りきれない品質。これは顧客ごとに異なる期待や体験を反映し、時に明文化された基準を超えて、ブランドや製品への信頼感を醸成します。 - これは顧客の期待や経験、文化的背景により異なり、製品のブランド価値や信頼性にも直結します。また、感性的品質は市場や時代の変化に伴い、顧客が求める価値や期待が多様化しやすいという特徴があります。そのため、製品開発やサービス提供の現場では、顧客の声やフィードバックを積極的に取り入れ、柔軟に品質を見直す姿勢が求められます。
ここに「職人の誇り」や「文化的感性」が宿る。
◆ 歴史的・地政学的背景
- 日本やドイツなどのモノづくり文化では、熟練者の勘・経験・感覚(いわゆる“匠の品質”)が長らく基準づくりの中心にあった。
- 一方、アメリカなどでは「大量生産・再現性確保」のために、統計的手法による基準の 明確化が早くから重視された。
- つまり、「基準づくり」はその国の産業文化と生産構造に強く依存しており、品質の“意味づけ”自体が文化的要素を帯びている。
◆ 基準づくりの意義
品質基準を作ることは、単に製品を測るためではなく、
- 「良いとは何か」を共通言語化すること
- 供給者と顧客の信頼関係を形成すること
- 改良・改善の方向性を共有すること
にほかなりません。
「品質」に関わる考察が一般的な課題解決型の技術論や管理技術の提案などと異なった書き出しとなっていますが、AI技術が急速に発展し世の中の価値観が変化しようとしている状況下で、ただ従来からの慣習や大量生産・消費のモノに押された管理技術だけに頼った内容にならないように考察していきます。
従って、以後 新たな品質基準を設定することを目指して、次節では昭和の技術職が奮闘した統計的品質管理(SQC)がポイントになります。