コーチング:No4 「脳のクセ」

コーチング・入門から実践まで

No.4 「脳のクセ」

個人会員  長嶋みさき

 「脳のクセ」には多くの人に備わっている認知バイアスと、それぞれの経験から来る先入観によるものとがあります。どちらも知っておくと便利ですし、人間関係にも大きく役立ちます。自分の行動がどのような無意識から生まれるのかが分かると、セルフコーチングにも有効です。

 認知バイアスとは、人間の脳が無意識に行う思考や行動です。情報処理を効率化したり、脳のエネルギー消費を少なくしたりするためのものと考えられています。その傾向は人によって大小があり、特定のクセだけが突出する場合もあります。ある時には合理的な判断を鈍らせ、ある時には現状を正しく評価できない結果に繋がることもあります。例えば次のようなものは代表的な認知バイアスです。

  • 多くの人が支持する意見・行動を選択しやすい
  • 何度も接した情報は信じやすい
  • 成功は自分のおかげ、失敗は周囲のせいだと思う
  • 新しいことに着手するのを避けたがる
  • 手のかかることを後回しにする
  • 災害や事故に遭った時に状況を過小評価する
  • 能力や容姿など一部が長けている人を良い人だと思い込む

などなどほかにも様々な認知バイアスがあります。脳の消耗を避けるための行動でもあるので、悪いことばかりではありませんが、脳のエネルギー消費を惜しんだことで、誤った判断をするリスクがあることも知っておいて下さい。

 さて、個人的な先入観による脳のクセについてもお話ししましょう。

 先入観とは、得られた知識や経験から頭の中に作られる思い込みです。自由な思考を妨げる可能性があり、一度作られると新しい情報が入っても修正するのが難しくなります。そして先入観がより強固に固定化したものが固定観念です。長い時間をかけて形成され、無意識のうちに当たり前と感じられるため、思考や行動に大きな影響を与えます。「~とはこういうものだ」「~はこうでなければならない」「そんな事は無理に決まっている」などという強い決めつけは、場合によっては人間関係や自身の可能性を制限することにもなります。偏見もひとつの固定観念です。

 松下幸之助翁が、こうした事柄を本能的に理解し、重要視していて、経営する組織がまだ小さかった頃から世界的な巨大企業になるまで、人の心から目をそらさなかった事にただただ敬服します。その一部を引用します。経営者としてだけでなく、人間として柔軟であることの大切さが示唆されています。

 「罵詈雑言は自分の力をただ見せつけたい無意識から生まれる。それは結局相手に傷と嫌悪感しか与えない。」「若い従業員に上から物を言って、意見を否定していると、人と会社の可能性を潰すだけ。」「固定的な価値観を押しつけるばかりで自ら何も変わろうとしない人間に、信頼される日は来ない。」「誰もが自分を大切にして、誰もが人を拒まないのが良い。」

 好ましくない脳のクセは自分で修正することも終わらせることも可能です。良いものは残し、気に入らないものは遠慮なく捨てて下さい。