シリーズDX化を進めたいけれど その5

シリーズ 「デジタル思考で目指すDX」

  シリーズDX化を進めたいけれど その5
~どうすればよいのか?
~どのくらいの投資が必要か?
~DX化の意味は?

DX/デジタル研究会 伊澤 俊夫

2.デジタル化とは

 情報や知識を伝達し、共有化することの工夫は人類の進歩の歴史をしめしている。身ぶりや手ぶりで伝えていたことを、共通に使える文字を考案してそれを壁画などと同様に書き残すこと。記録の道具としてパピルス、木片から紙の発明によって、簡単にそして大量に情報を記録することが出来るようになった。文字情報のスタートである。文字情報を大量に伝える技術として「印刷」という記録手段が生み出され、15世紀中ごろ活版印刷の発明により従来限られていた情報伝達・共有化が急速に広がった。知識の共有化は、人類文化の広域化や高度化を進め産業革命へと導いてきた。

 文字情報だけではなく、音や映像なども伝えたいとの思いは通信技術の進歩によって進化してきたが、その歴史をたどるだけで大変な技術文献となっている。その技術は18世紀中ごろから、電気による通信―電信が高速・遠距離通信を可能とし、18世紀後半から19世紀半ば欧米の産業革命と呼応して、急速に活用技術が進化した。電信は、伝えたい文字を符号化(「-」「・」の2種類)し電気の信号に変えて送るもので、電線をつなぐことにより、離れた場所との情報のやりとりがより速く確実にできるようになり、情報通信技術は電気信号を用いたことによって飛躍的な発展をした。

音声通信技術~

1876年:ベルが電話機の原型を発明、その後グレイ(米国)が実用機を発明、エジソンが炭素送話器を 発明するなど多くの人の改良を経て、音声通信が可能になった。

1889年:電話通信増加に対応するため、自動交換機ストロージャーが開発された。機械式 自動化はその後 機械式スイッチと電磁リレーを使ったものや電子式さらに蓄積プログラム制御方式などのアナログ交換機から、デジタル交換機へ進化(日本では1997年にすべてデジタル交換機へ移行)。

1895年:無線通信の実験成功。

1901年:3,000kmの大西洋横断無線通信の成功により無線通信の有用性が示された。電磁波を「情報を伝送する媒体」として初めて利用し発展させた。

1906年:に米国で世界初のラジオ実験放送が行われた。

1907年:米国のデ・フォレストが三極真空管を発明し、急速に応用分野を広げ、さまざまな真空管が登場して、通信の分野も電子技術を応用する時代に入った。

1920年:ピッツバークにラジオ放送局が開局し、このときには鉱石ラジオ受信機が使われた。

1925年:日本でラジオ放送が始まった。1928年には全国中継網が完成した。

1955年:東京通信工業(現在のソニー)が世界初のトランジスタラジオを実用化。ラジオ放送の利用も手軽さやパーソナル性のあるものに変わっていった。

映像伝送技術~

1884年:ニプコウ(P.G.Nipkow ドイツ)が機械的な走査方式のテレビカメラを発明。渦巻状に並ぶ穴のあいた走査円盤を被写体の前で回転させ、その明暗によって画像をとらえるようにした。

1925年:ジョン・ロジー・ベアード(J.L.Baird 1888-1946 イギリス)は、画像の伝送技術の研究を続ける中で、機械式テレビジョンを使って静止画像伝送の実験を行い、翌年には動く画像の伝送実験に成功した。

1926年:日本で、高柳健次郎(1899-1990)がにブラウン管を使って「イ」の文字を伝送することに成功した。

1928年:カラーテレビの実験にも成功。

1934年:ウラジミール・ツヴォリキン(Vladimir Kosma Zworykin 1889-1982 ロシアのち米国に帰化)がテレビの機械的走査方式に対して電子式走査方式の研究を行う中からアイコノスコープ(蓄積型の撮像管でギリシャ語のeiken(像)+ skopin(見る)から造語)を発明し商品化した。現在のテレビ技術の基礎を築いたのは、ツヴォリキンによる電子式テレビカメラの実用化によるものと言える。

1935年:ドイツでテレビ放送が開始された。

1953年:日本で本格的なテレビ放送が開始された。一般家庭にテレビが普及したのは、それまで高価であったテレビ受像機が購入可能な価格になった1955年移行であった。

無線電話から携帯電話へ

1914年:鳥潟右一、横山英太郎、北村政治郎が共同で、世界初の実用無線電話機(TYK無線電話機)を発明した。

1925年:八木秀次・宇田新太郎が指向性の強いアンテナ(八木アンテナ)を発明した。このアンテナは現在、超短波の送受信、TV受信用として一般的に使われているもので、アンテナの基本原理を発見したことになるが、当時国内では評価されず、欧米で研究が進められて太平洋戦争後に海外から日本へ技術が逆輸入されることとなった。

1928年:神戸および門司の加入者と船舶内電話との無線電話が開始された。これが船舶無線電話のはじまり。
1953年:東京湾と大阪湾で通話が可能な船舶電話が登場。1964年には、通話範囲が沿岸にも拡大された。

1957年:近畿日本鉄道で始まり、1960年には国鉄(現在のJR)でも利用可能となった。

1979年:列車電話は自動車電話に東京23区内でサービスが始まり、のちにショルダーホンとして車外へ持ち出せるようになった。

1987年:ショルダーホンが小型・軽量化された携帯電話が登場。

1995年:PHS(簡易型携帯電話)のサービスも始まった。

アナログ通信からデジタル通信へ~

1949年:米国オレゴン州アストリアとペンシルバニア州ランスフォードでケーブルテレビ(有線テレビジョン放送)が開始された。テレビの販売に影響を与える難視聴対策として共同受信のインフラ整備がはじまり、その後、ケーブルTVは「モア・チャンネル(多チャンネル)」として発展し、1990年代の情報スーパーハイウェイ構想では双方向TVがマルチメディアの主役とまで言われるようになった。

1955年:日本では、テレビの難視聴対策のためにケーブルTVが始まった。1960年代終わり頃からケーブルTVによる自主放送や都市部でのビルなどによる受信障害を解消するために都市型ケーブルTVがはじまり、1980年になって20~30チャンネルの多チャンネル時代に入った。ケーブルTVの普及率は、現在の日本では、全家庭数の20%強で、米国では60~80%と言われている。

1962年:米国で最初の通信衛星「テルスター1号」(AT&Tのベル電話研究所が開発した周回衛星)の打ち上げ。

1965年:初めての商業通信衛星「インテルサット1号」が打ち上げられた。現在テレビ放送は、「地上放送」だけでなく、ケーブルテレビ(CATV)や放送衛星(BS)・通信衛星(CS)などの衛星放送が行われており、多チャンネル、マルチメディアの方向に進んでいる。

 このように電気通信技術の発達により、情報のありかたにも変化をもたらした。それまでは必要とする人に対してのみ伝えられるものであったが、ラジオやテレビによる放送というメディアの登場によって、不特定多数の人が情報を受けたり、ケーブルテレビなどのように双方向性をもつ形態も新たに生まれた。そして放送というメディアが多くの人々に対して大きな影響力をもつことにもなった。

 1972年には紙に書かれた文字や画像を送ることができるファクシミリ通信が一般電話回線でもできるようになった。電話による通信技術も、初めはダイヤル回線(パルス)だけであったが、その後プッシュ回線(トーン)が広く利用されるようになり、通話以外にも数字情報を送ることができるため、列車の座席予約やチケット予約などさまざまなサービスに利用されている。そして、現在の電話回線はアナログから、通信速度が速く音声以外のデーターを大量に送ることができるデジタルへと移行しつつある。

コンピュータのネットワークとインターネット~

 こうしたことは、コンピュータの登場によって、さらに大きなものへとなっている。コンピュータの演算装置は、はじめは真空管でつくられていた(第1世代)。1948(昭和23)年に、真空管にくらべて小型で消費電力の少ないトランジスタが発明され、コンピュータの小型化と高性能化が進んだ(第2世代)。1960年代にはIC(集積回路・1959年に発明)やさらに集積度が高いLSI(大規模集積回路)、VLSI(超LSI)と進化してきた(第4世代)。

 こうして小型化・高性能化の進行にともない、マイクロコンピュータ(マイコン)がさまざまな機器に組み込まれ機器の制御に使われるようになってきた。また、トランジスタや集積回路などの増幅作用をもつ電子部品の発明と、通信系路の改良によって通信範囲と通信能力の飛躍的な向上が実現していくことになった。さらにパーソナルコンピュータも登場し情報処理や通信の分野に大きな変革がもたらされた。現在の通信ネットワークには、コンピュータが中核となって形成されている。1969年には、米国防総省高等研究計画局による「ARPAnet」の実験が開始され、現在のインターネットへ発展した。コンピュータどうしをつなぐネットワークであるインターネットは情報化社会の新たな展開をもたらしている。

 通信技術の分野にコンピュータの技術が結びつき、海底ケーブル、通信衛星、光ファイバー(1970年に光ファイバー通信に適したガラス繊維が開発された。光ファイバー通信のアイディアは19世紀にイギリスで考案されていた)などの地球にはりめぐらされた情報通信網は、一層拡大しつつある。日本では1985(昭和60)年に日本縦貫(旭川~鹿児島間3,400km)「光ファイバーケーブル」伝送路が完成している。

 現在、電話回線のシステムやインターネットに代表されるように、人間は世界中を張り巡らす網の目(クモの巣)のような情報通信ネットワークを作り上げてきた。そしてこれらはさまざまな技術を組み合わせた巨大なシステムによって支えられてる。IT(情報技術)によるコミュニケーションは、時間や地理的な制約を越えたものとなっている。

ものづくりを支える情報通信ネットワーク

 ものづくりの世界においても、情報通信ネットワークを用いて、世界中の人々が知恵を出し合って製品をつくりあげている。技術開発におけるアイディアやノウハウなど、ものづくりに必要な知恵を探し出すことも、情報通信ネットワークを使うことによって驚くほど速く効率的にできるようになってきた。情報通信技術の発展は、遠くはなれた人たちどうしがお互いにものづくりに参加することを容易にし、変化に富んだ付加価値のあるものづくりにも対応することができるようになってきた。

 今回は、デジタル技術の活用について、情報伝達=通信の視点から歴史をさかのぼってみた。21世紀に入って、急激なデジタル技術の活用は第4次産業革命、サイバー&フィジカル時代とも言われ、様々なことが同時に、大きな変化にさらされている。そのような状況の時、自分や自分の身の回りを冷静に分析することも大切であると考える。

 次回はデジタル化技術の活用によって、何が実現できるのか?を探っていく。

【続く】


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