マーケティング入門:第7回 マーケッティングオートメーション

サラリーマンOBが独自の視点で解説する
マーケティング入門

第7回 マーケッティングオートメーション

個人会員 金野 成男

マーケッティングの理想は、販売を不要とすることである。マーケッティングが目指すものは、顧客を理解し製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。

 本シリーズ第3回で紹介したドラッカーの言葉です。

 楽天、アマゾンなどのB2C、メルカリに代表されるC2Cなどのeコマースが(人の)営業不要のビジネスモデルを実現しており、eコマースによるB2Cの市場規模は年々増加し22年度にはサービスを含めると22兆円と、全小売の10%弱に迫る勢いです。eコマースはネット上の商店(プラットフォーム)に商品を陳列することで受注から入金まで営業要らずのドラッカーの理想が実現しています。

「PUSH型」営業から「PULL型」営業へ

 B2B営業の世界でも、マーケッティングオートメーションといわれるデジタルマーケッティングが10年ほど前から注目され始めました。従来、新規顧客開拓は既存顧客からの紹介、展示会の名刺、新規分野だと全くの飛び込みと、営業は足で稼ぐと言われてきました。このようにこちらから押しかける営業スタイルを「PUSH型営業」ともいいます。それに対し、ITを活用して顧客に見つけて貰う「PULL型営業」がマーケッティングオートメ―ションです。

「マーケッティングオートメーション(MA)」の概要

 生成AI“Bing”に教えてもらいましょう。(200字で要約して貰いました。)
 「マーケッティングオートメーションとは、マーケティング活動を自動化し、効率化するための方法論やツールのことです。マーケティングオートメーションの機能には、以下のようなものがあります。
リード管理機能:顧客の情報や行動履歴を一元管理し、優先順位や商談確度を判定する。
メール配信機能:顧客の興味やニーズに合わせてパーソナライズされたメールを自動的に送信する。
分析・効果測定機能:マーケティング活動の成果やROIを可視化し、改善策を提案する。

「マーケッティングの3段階」
 MAの説明によく出てくるのが「マーケッティングの漏斗」と「営業の漏斗」の二つの漏斗です。後者は、シンプルに切り分けると、見込み客から引き合い入手し受注までの、従来の営業プロセスです。前者のマーケッティングの漏斗は、潜在顧客、潜在市場を開拓発掘し、見込み顧客に育成する過程で、従来は足で稼いでいたプロセスです。MAでは足で稼ぐ代わりに、ネットとAIを活用して顧客に見つけてもらいます。

 マーケッティングの漏斗をもう少し詳しく見ると以下の3段階に分けることができます。

 “リード”とは、マーケッティング用語で顧客、正確には見込み顧客を指します。
Step1 リードジェネレーション(顧客創造):顧客の創造/顧客の顕在化
 未開拓市場、潜在顧客に対して、展示会、WEBページ、SNSなどの不特定多数にアクセスできる媒体を通じて、自社/商品を知らしめ、顧客の名前、会社、所属、メールアドレス等の情報を入手し、顕在顧客化し、コンタクト可能にする工程を言います。
Step2 リードナーチャリング(顧客育成)
 ナーチャリング(nurturing)とは英語で育成とか子育ての意味です。マーケッティングの世界では、見込み顧客にメールマガジンなど様々な手段を使って有益な情報を提供することにより、購買意欲を高める工程を指します。
Step3 リードクオリフィケーション(顧客選別)
 購買意欲の高い顧客(商品への関心が高い顧客)の購買意欲を数値化して評価し、実際に購買の可能性の高い顧客を選別し、営業に渡すまでの工程です。

「MAのステップごとの活動」
 これらのマーケッティングステップを、顧客から見た認知レベルと並べると以下の様になります。
上が売り手目線でのマーケッティングステップで、下が顧客の認知レベルの推移です。
実際のマーケッティング活動では、各ステップはラップしており、更にはクオリフィケーションの段階で、内示寸前まで進むこともあります。 

 マーケッティングオートメーションでは、この3段階の工程を通して、ソフトウェアを使用して顧客管理をおこないます。
Step1. 顧客創造段階:匿名顧客にアプローチするためには、展示会とWEBが主要な武器になります。展示会は直接顧客情報を入手(実名化)するだけでなく、狙いとする業界/競合を知る意味でも有効です。MAソフトはWEBのアクセス管理を通じて、WEBページ最適化(SEO)情報を提供します。顧客情報を入手するために、WEBに会員登録や資料請求などの入口を設け、MAソフトに個人情報を取り込む仕組みも必要です。

Step2. 顧客育成段階:MAソフトの顧客管理機能で、顧客の関心事、行動を把握し、顧客ニーズに即したメルマガをメール配信機能で、定期的に配信します。

Step3 顧客選別段階:MAソフトには顧客の関心度の高まりをスコアリングする機能があります。これにより、顧客の関心度と購買機会を判定し、購買の可能性の高い顧客を選別し、営業に顧客情報と一緒に引き継ぎます。これにより営業は案件実現確度の高く、且つ商品の認知の進んでいる顧客と商談を進められるので、リードタイムが短く且つ受注確度の高い効率の良い営業活動が期待できます。

MAのメリット
 WEBやSNSはコンテンツ作成の初期費用だけで、世界中のインターネットに接続できる人が対象になります。しかも24時間対応です。またメールマガジンも配信数が増えてもほとんどコストは増えません。従ってこれらは新規市場・新規顧客の開拓にはコストパフォーマンスの良い手段であり、企業規模に比して対象のマーケットの広い場合には、必須の媒体です。MAソフトでは、WEB閲覧記録を分析して、有効なキーワード、アクセス経路、顧客の興味のある話題などを把握することで、より顧客に見つけてもらいやすい様に環境の改善ができます。また、メルマガでも開封率や個別記事へのアクセス分析により顧客の関心事を把握し、顧客の関心に合わせて記事を変えるなどをしてくれるようです。
 顧客管理の面でも、顧客情報の一元管理を行うことで、マーケッティングから営業ステージまで情報の共有化が可能となります。

MA導入の判断
 MAソフトに任せれば全て自動でStep3まで勝手にやってくれそうな夢のソフトに思えますが、以下のような課題が考えられます。
1. 成果が出るまでに一定の期間が掛かること。
2. MAソフトのコストが高いこと。
3. WEBページの更新、メルマガ記事材料の作成など、マンパワーが必要なこと。

 従って導入に当たっては、期待する売上増額を想定し、それに対して投下可能な予算を決め、予算内で求めるMAが可能か判断し、導入すると決めたら効果の判定は少なくとも2年間は覚悟すべきでしょう。
 一方、費用対効果からMAを導入しないと判断した場合でも、MAの考え方を取り入れ、顧客との窓口としてWEBページのSEO対策と、対象業界/顧客に検索して貰えるキーワードを考慮したコンテンツ作りと、顧客情報の一元管理と共有は、少なくとも取り入れると良いでしょう。

 今回、本稿を執筆するにあたり、MAは顧客価値にフォーカスを当てたマーケッティングの王道を歩んでいると改めて感じました。

 次回最終回は、マーケッティングの王道について、考察したいと思います。

以上


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