エピソード:絆 ⅲ(東日本大震災に遭遇して)

個人会員 伊澤 俊夫

 前回までに記載してきたように2010年に立ち上げたタイヤ金型の製造会社は、買収した金型製造会社の工場・設備・人員を引き継ぎながら、横浜ゴムの金型設計技術・開発製造工場の設備・人員を統合して、金型設計、製造、保全・修理技術支援事業と一貫した機能型事業子会社として運用して、タイヤ事業のQCD(品質・コスト・納期)の維持改善に貢献することを目的とした。
 特にタイヤの金型については、タイヤ商品の意匠や性能に係る部分もあり、各企業の固有技術として社外秘の部分が多かった。2000年ぐらいから、韓国そして中国のタイヤメーカの増産・グローバル供給が始まり、それに伴って金型の生産も急速にその生産能力が伸びていった。その結果、日本国内の金型製造会社も厳しいコスト競争にさらされる状況となり、タイヤメーカも性能・品質とコストを維持・改善を図るために、金型の設計技術と調達・供給に、金型製造会社の固有技術を取り込み一体化によるトータルQCDの大幅な改善を図ることであった。

 そこで重要なのは、異文化の統合であって、

  1. タイヤ商品の機能・性能品質を高めるデザイン・設計技術に基づく加工仕様、加工図作成
  2. その加工図を基に金型製造の現場=アルミ鋳造技術・金属加工技術(機械・手作業)
  3. 原材料調達・外注加工などの購買、生産管理そして技術支援等の総合管理等

を実施することであった。

金型製造 仕事の流れ
金型製造 仕事の流れ

 別会社や、横浜ゴムの関連部門から人員が集まりまさに異文化の集合であった。それぞれの場所・部門で仕事をしてきたため、個々の作業については十分習熟していたが、それが、個人・職場間の仕事の不整合となって、仕事の効率が悪くなっていた。そこで、取り組んだことは徹底的なコミュニケーションであった。

コミュニケーションが絆を
コミュニケーションが絆を

                           

 兎に角、お互いに良く話をする。相談をする。そのための活動「整理・整頓」と「実践研究会」を柱として、仕事の繋がり「流れ生産」を求める活動を進めた。
 コミュニケーションを高めるために、仕事以外の面でも、従業員の人達で企画する多くのイベントを会社としてもサポートした。
 休憩所の整備は従業員のコミュニケーションを図るために大切であり、その結果、人の絆が強くなる。
 東日本大震災は、悲惨な大災害であったが、このような危機に遭遇すると人の絆の大切さが理解されるし、この経験を通して共通の場や体験を通じて絆が生まれ強くなる。そのような集団になれば、その集団は自立し進化していく。

事業目標設定と課題
事業目標設定と課題

 会社はその「企業理念」(社是)のもと、経営は「企業方針」「事業目標」を設定し、執行部隊は実行計画を策定し、実行する。それぞれの役割を果たすことが大切である。しかし、中小企業では少数でその役割分担が難しく、経営トップが実務に入り込んで指示型になるケースが多い。その結果、従業員は指示待ちとなり、組織の成長は止まってしまう。

 中小企業が成長するときに必要なことは、企業方針を明確にして、従業員とそれを共有化すること。個々の課題達成は従業員の役割として、責任と権限を与えて結果が出せるように支援をすることである。
 企業買収された中小企業の工場が中心となってわずか3年で事業規模2倍以上の機能型企業として自立できたことは、各自が自分の役割を認識して頑張った結果であると考えている。
 成長しない会社、事業は結果として社会に貢献できない。企業の成長は単に経営の成功ではなく、従業員を含めた人・組織の成長によって実現し支えられている。
 急速に進むデジタル化、環境変化の時代に乗り越えられるのは、昭和型トップダウン経営ではなく、多様性を認めた集団の総合力の強化が求められることを40年間務めたサラリーマンの最後の仕事として経験し、人の絆の大切さを実感できたことに感謝している。

  


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