エピソード: 忘年会出席率95%

個人会員 仲田 清

 4月号の社内報編集長“奮闘記”に続き、T君の活躍です。

 事業部の幾つかのビジネスユニットを分離統合した子会社が発足して3年目、東京営業に戻る予定が、突如 企画管理部長に任命されて約半年、初めての上期決算を控えて忙しい最中、社長から「今年の忘年会は出席者を倍増してくれ」と難題を突き付けられました。現場中心の転籍者、設計/営業中心の出向者、中途採用者、更にその年の春に営業譲渡で入った企業文化も地域も異なる4つのグループを抱え、春の花見参加者は40%と惨憺たる状況だったそうです。
 私自身不参加率60%に貢献した一人でしたが、業務命令とならばそこはサラリーマン、目標に向かってプロジェクトスタートです。

 一回は職制を動員してでも出席して貰えるとして、失敗すると次は無いので、総務担当のT君と戦略を練りました。まずは社員へのマーケッティングを実施、その結果、①会費が高い、②偉い人が威張っている、③楽しくない、④帰りが大変等々;要は「面白くもない行事に、偉い人の満足の為に参加して、帰りの足にも苦労するなんて、金と時間の無駄」と散々でした。
 「楽しく飲めて、お金も掛からず、行きも帰りも楽ちん」をコンセプトに【社員が主役の、後悔させない忘年会】をキャッチフレーズに、参加を阻害する金・距離・時間の 3つの壁を壊しリピーターになって貰う為の方策をT君と展開しました。なお、この「3つの壁」を破ることがイベントを成功させる鉄則です。
 <>今まで忘年会と花見の、年2回行っていた懇親会を忘年会1回のみとすることで、福利厚生予算内で会費”0”を実現。年1回になるので、事務局の負担も軽減された。
 <距離>沿岸工場地帯にある会社から遠い人で半径20km圏内に分散して居住しており、大半が車通勤。そこで全社員の自宅を地図上にプロットして、ロジスティックス検討。会社から直行の他、一度帰宅する人をピックアップするルートなど、いくつかの送迎ルートを設定し、少なくとも自宅からワンメーター圏内までの足を確保した。
 <時間>お金と距離の目途が立ったので、最後且つ最大の壁を壊す「時間を忘れる楽しい」コンテンツ作りです。ここはT君を事務局に彼が選んだ若手社員たちにお任せし、私も当日を楽しみに待つことにしました。詳しくは後述しますが若手社員に丸投げしたのは大正解でした。

 企画と並行して、部課長や組長さんたちへの脅迫気味のPRと職場への教宣のお願い等、勧誘に務め、いよいよ忘年会当日送迎バスが到着し、会場に社員が入ってきました。結果、目標を大きく上回る出席率“95%”を達成。これは職制の働きかけもさることながら、若い人に企画段階から参画して貰うことで、普段、部・課の飲み会にも出席しない若手が自分たちのプロジェクトだとの意識を持ってくれ、彼らが周りを巻き込んだ効果が大きかったと感じました。社内報と同じ構図です。

 これで第1関門はクリアーし、次は本丸の「時間を忘れる楽しい」忘年会の実現です。社員には自由に席に座って貰い、管理職をバラバラに配置しブロックの接待役をお願いしました。始まったら若手のプロジェクトチームが運営を仕切ってくれるので、後はお任せとビール片手にのんびりと宴席を周回していました。
 ところが宴もたけなわになったころ、T君に舞台袖に呼び出され、「これからメインイベントのビンゴ大会をやるので、その司会をやれ」とご下命が下りました。寝耳に水・酔っ払いに冷や水ですが、渡されたド派手な大判ラメ入り蝶ネクタイを付けて“Ladies and Gentlemen! ・・・”と、マイク片手に出てきたボールの数字を読み上げていきました。静まり返っていた会場もリーチの声が出始めるとあちらこちらから欲しい数字の声が聞こえて賑やかさが戻り、大物が当たると悔しさと祝福の混ざった拍手で大盛況のうちにビンゴと忘年会がお開きになりました。

 T君とプロジェクトチームのお陰で【後悔させない忘年会】が実現し、翌年以降も90%以上の出席率を維持し6年後の事業統合で社員数が倍増して、全員を収容する会場が無くなり中止されるまで、名物行事となりました。
 忘年会や社内報のお陰で、4グループの壁が消えたとは言えないまでも社内の雰囲気はぐっとよくなりました。会社としても、4半期ごとの定期報告を通じて全社員に経営状態の報告と経営方針の説明を行い、会社の現状と向かおうとしている方向をオープンにしていきました。
 その後機種の整理統合、人事制度の刷新、組織改編など大掛かりな経営改革を行いましたが、定期報告で会社の考えが(多分?)理解されていたことに加え、社内報、忘年会等のイベント、T君や経理GのM君が日ごろ地道にケアしていた人のつながりによる信頼関係が大きかったと思います。この事業再編は、親事業部の子会社化と事実上の吸収合併で完了しました。なお、会社をまとめる一番の薬は、「儲ける」でした。

以上


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