横須賀市夏のボラ市2019参加
「親子の包丁研ぎ塾」を開きました
2019年8月3日9時30分~11時30分にかけて、横須賀市本町コミュニセンター6階の調理室で「親子の包丁研ぎ塾」が開かれた。毎年恒例の「夏のボランティア・横須賀市民活動体験」、略して「夏のボラ市2019」に今年も認定NPO法人産業クラスター研究会が参加した。講師は、同会会員で包丁砥ぎ師、砥ぎ屋「八七三(ヤナサン)」店主の柳本茂が務めた。
小学生も高学年になると親のお手伝いでキッチンに立つことも増えるだろうし、その時に包丁が砥げたら親御さんは屹度喜ぶに違いない。包丁を安全に扱うことを学んで怪我を防ぎ、包丁のモノを切る原理を学んで理科に興味を持ってもらうことなどを考え企画した。
募集定員は親子10組。しかし蓋を開いてみたら応募はゼロ。残念ながら親子の包丁研ぎ塾は成立しなかった。ところが自分で包丁を砥いでいるけれど自己流で上手く砥げない、自分でも砥いでみたいという方が7名集まって、大人の、いえいえ「じじ・ばばの包丁研ぎ塾」となった。産業クラスター会員4名のサポートもあって塾は無事に終了した。包丁塾の一部を紹介したい。
1、刃先角度を変えてあぶら粘土を切ってみる
包丁の刃先角度が小さければ小さいほど食材に切り込む抵抗は小さくなる。それは頭では理解できても実際はどうか。先端を約45°、20°に削った竹ヘラを使って棒状のあぶら粘土を切ってみた(写真1)。サポーターも含めて全員体験である。角度45°では抵抗が大きくて刃は半数以上の方が途中までしか入らなかった。約20°ではスッと下まで入って切り離せた。「こんなにも違うものか。」皆さんの感想である。
講師から、「刃先角度を鋭角にすれば良く切れるが刃は欠けやすくなる。鈍角にすると刃欠けの心配は無くなるが、大きな力を要して切りにくくなる。包丁の砥ぎはそれら相反する条件の間で最適な角度を探すこと。大体20°~30°が目安」と説明した。
2、切れる包丁と切れない包丁
切れる包丁と切れない包丁とでキュウリをスライスし、顕微鏡で細胞組織を比較すると切れる包丁では組織がネットワーク状に綺麗に残っているのに対し、切れない包丁の組織は崩れてネットワークが無くなっていることをスライドで示した。味の違いは不明である。見た目は良い。また新聞紙のヘリをつまんで切れない包丁で切ろうとしても刃は逃げてしまうのに、切れる包丁で切ると、新聞紙は斜めにスパッと切れることを、講師が持参した包丁で実演して見せた(写真2)。続いて「各自が持参した包丁で新聞紙のヘリを切ってみてください。」と講師に促されて新聞紙に刃を当ててみたが誰一人として切れない(写真3)。「本日の講習会では自分で砥いだ包丁で新聞紙が斜めに切れることを目標にします。この方法はご自宅で砥ぎが上手く行ったかどうかを判断するのに使えます。」と説明すると、「なるほどな」との声が幾つも聞こえた。
3、包丁を砥ぐ
砥石は濡れたタオルの上に乗せて固定した。7名の参加者のうち包丁砥ぎの経験者が6名、1名は初回であった。包丁と砥石との角度(約45°)と、砥いでいる時に包丁をバタつかせないために、左右の指で包丁を抑え込む方法を説明した(写真4)。
砥石に対する包丁の砥ぎ角度(仰角)は、経験者は今までの角度で良く、初回の方は刃にマジックインキを塗って仕上砥石(#6000)の上をゆっくりこすり、マジックが消える角度を砥ぎ角度として体で覚えることを伝えた。
7名が2つの調理台に分かれ、中砥石(#1000)を使って砥ぎ始めた(写真5)。砥ぎの目安は反対面にかえりバリが立つことであって、しかもバリは刃線の全長にわたって発生しなければならず、一部でも残すとそこには刃が付かないことを教えた。反対面のバリ取り砥ぎをするとバリは反対側に倒れ込む。それを取る砥ぎをする。根気よく何度も繰り返して取り除く。
バリというものがどういうものか分からないので、講師が持参したバリが立った包丁を実際に指先で触ってもらい、全員がバリの感覚を掴んだ。
砥石はクラスター研究会で新品5丁を用意し、2名が砥石を持ち込んで使用した。包丁の砥ぎは砥石の平面度を転写する作業なので、中央部が凹んでいる砥石では上手く砥げず包丁の姿を悪くする。だから砥石の面は平坦でなければならない。新品の砥石5丁は受講生たちが購入し持ち帰った。
4、砥ぎの安全について
砥ぎで立つバリは「かえりバリ」と言ってとても薄く、刃を押さえつけている左手の指先を切ることがある。痛みは感じず血が出て切ったことに気づく。指の腹を砥石で削って血を流すこともある。いずれも赤チン災害で慣れない時に普通に起こることである。
刃が付いた包丁を置くときは必ず安定したところに置くこと。万が一包丁が落下しても手づかみせずにほっておく。そして包丁の刃は自分と反対側に向けて置くこと。自分の方を向いていると包丁に指が振れやすく、怪我をする。
今回の講習会では、万が一受講者が大きな怪我をして病院のお世話になった時のために、グループ傷害保険に加入していた。
5、バリについて
バリは丸くなった刃が削られて新たに刃が付いたことを知らせるものである。包丁をひっくり返して反対面を砥ぐことでバリ落としができる。その結果、包丁の両面が結び合って刃が構成される。バリ取りは中砥石でそっと行う。力を籠めるとバリが取れずに新たなバリ発生となって何時まで経ってもバリは取れない。ある程度小さくなったら仕上砥石に替えて両面をそっと砥ぐ。このバリが綺麗に取れないと新聞紙はサッと切れない。
6、包丁の刃を新聞紙でしごく
仕上砥石で仕上げても目に見えないバリは残っている。新聞紙をテーブルの上に広げ、包丁を一方向に滑らせながら刃をしごく(写真6)。裏表を何回か繰り返す。バリが残っているとその部分の新聞紙が破けるからその部分を仕上砥石で砥ぎ直してバリを取る。両面ともに新聞紙が破れなければバリは取れたと判断する。
7、砥ぎの卒業試験
卒業試験トライアルのタイミングは自分で判断する。
一番乗りの受講生が新聞紙のへりを左手に持って右手の包丁を新聞紙に切り込んだ。「シャー」という音と共に包丁は見事に新聞紙を切り裂いていった。
「ワ~ッ、切れた。」と喜びの声。周りから一斉に拍手が起きた。その後順次に卒業者が出た。しかし最後まで手こずった方には講師が手伝って仕上げた。
終了後のアンケートでは受講者のほぼ全員から「楽しかった」との感想が寄せられた。
8、包丁砥ぎ塾を実施してみて
「親子の包丁塾」の企画は達成できなかった。横須賀市の関係機関に多くのビラを配布し、会員の知人に声を掛け、FMブルー湘南でも参加を呼び掛けたのにもかかわらず。理由を考えると若い親御さんは包丁砥ぎに興味はなく、子供の中にも包丁砥ぎに興味を持つ子はいないと思われた。現に若い方は砥ぎ屋にほとんど訪れない。
しかしご高齢の方々には自分で砥いではいるものの、もっと上手になりたと思っておられる方がいることがわかった。これからは産業クラスター研究会の企画事業として地域の皆様方を対象にした包丁砥ぎ講習会や、あるいは砥ぎ屋として包丁についての知識を深める講演会、包丁砥ぎのご依頼など、様々なご要望に応えていきたい。
ご要望の折には当会事務局へお問いあわせてください。
( 個人会員、砥ぎ屋「八七三」店主 柳本茂 )