ウグイスの語源説考

鶯に誘われてシリーズ

ウグイスの語源説考

   個人会員 奥谷 出

1.ウグイスの語源説について

 ウグイスという日本語名の語源説については定説があるが、定説を作り上げる過程に疑問を覚えたので改めて考えてみたい。語源説の内容に入る前に、語源説と関わりのある「聞きなし」ということについて触れます。

聞きなしとは
 「聞きなし」という言葉は鳥の鳴き声を聞く上で重要である。その方法には、「聞きなしの成立」(『人文学報』第83号)によると,次の2つの方法がある。

  1. 人は特定の烏のきまった声を,意昧のある言葉として聞きとることがある。
  2. 聞き取った声を単に言葉に写す。すなわち、聞き取った声を言葉で表現する

 1.に関して、『広辞苑』では、「鳥のさえずりなどの節まわしを、それに似たことばで置き換えること。コノハズクの「仏法僧」、ホオジロの「一筆啓上仕り候」、ツバメの「土喰うて虫喰うて口渋い」など」、と記している。
 聞きなしについては、ホトトギスの鳴き声の聞きなしがすでに『万葉集』において見られる。

  暁に名告り鳴くなる霍公鳥(ほととぎす)
    いやめづらしく思ほゆるかも
   大伴家持(『万葉集』18-4804)

 この和歌では、ホトトギスは自分の名を名乗るように鳴いていると詠っている。すなはち、自分の名を聞きなしているのである。

 従来、聞きなしというと、1.と捉えられていたが、「聞きなしの成立」により、2.の方法があることが明らかにされた。そして、1.は、むしろ聞きなしの特殊例とされている。
 なお、「聞きなし」には、聞きなすという行為を指す場合と聞きなした言葉を指す場合とがある。

 現在、ウグイスの鳴き声といえば「ホーホケキョ」しか思いつかないが、平安時代から江戸時代にかけては、「ひとくひとく(人来人来)」、「月日星」などの鳴き声が存在した(『ちんちん千鳥の鳴く声は』)。江戸時代後期の国語学者 鈴木朖(あきら)は、そのあたりのことについて次のようにいっている。

 鳥獣虫の声と人のとは隔てある故に、種々に聞きなさるべし。されば鳴声は一つなれど、うつす所には、古今、戎夏、雅俗の不同ある也(『雅語音声考』)。

 これは、聞きなしに多様性があるということである。

 前述のことからもわかるように、「聞きなし」という言葉の誕生は江戸時代後期まで待たねばならない。普及するのは大正時代以降。大正10年(1921)に刊行された川口孫治郎『飛騨の烏』には.『闇倣』という言葉が散見する。川口孫治郎は翻訳という言葉も使っている。一方、章句仮充法(しょうくかじゅうほう)、これは意味のある短い章句を充てて模倣する方法であるが、川村多実二が使っている(「聞きなしの成立」)。

ウグイスの語源説の研究について
 ウグイスという日本語の語源については、国学の勃興する江戸時代に主に論じられ多くの説がある(『日本国語大辞典』鶯)。それらの中で、よく引用されるものとして、『日本釈名』の中の報春鳥の項に記されている貝原益軒の仮説がある。

 うくはおく也。……ひすはいづ也  ……おくいづ也。云は谷のおくよりいづること也。幽谷をいでて喬木にうつる也。(『日本釈名』巻の中・鳥・報春鳥)

『日本釈名」鶯の語源説
『日本釈名」鶯の語源説
国会図書館ディジタルコレクション

 「うぐひす(古名)」の「うく」はおく(奥)、ひすはいづ(出づ)で、「おくいづ(奥出づ)」が転化したものとしており、「谷の奥より出て、喬木に遷る」という意味があるといっている。
 この仮説は簡潔であるが、意味していることは「幽谷を出でて喬木に遷る」と記されている『詩経』小雅・伐木編の漢詩をヒントにした仮説と考えられる。何故伐木篇の漢詩を引用するのかの説明がなく、日本語の語源を説明するにはこれだけでは十分でない。『動物名の由来』には引用されているが、全体的には仮説例として引用されるに留まっている、と思われる。
 なお、ここで、貝原益軒は、鶯の漢字を使用せず報春鳥の漢字を用いているが、その理由は、後半に説明されているように、「ウグイス」に「鶯」の漢字を当てるのは間違いであり、鶯は中国のウグイスで使われるべき漢字と、主張していることによる。

 現在、定説となっているものについて、次に示す。
                                                       
 鈴木朖(あきら)は江戸時代後期の儒学者・国語学者である。その著書『雅語音声考』は、古語の語源について、鳥獣虫の声を写したものとする写声語源説をもって説いたもの(『ウィキペディア』鈴木朖)、であるが、その言葉の一つとしてウグイスの「ウクヒ」を取り上げ、次のようにいっている。

 今俗「ほおほけきょ」と云ふをは、「うゝうくひ」ともきけば聞こゆる也。「す」 といひ「し」と云ふは鳥にも虫にも多し。然るに古歌に,「うくひずとのみ烏のなくらん」とよめるは,其名に因て「す」もじをも共になく声にききなしたるなり(『雅語音声考』鶯のうくひ)。
【現在、「ほうほけきょ」と鳴いているのを、「「うゝうくひ」とも聞こうとすれば聞こえる。末尾の「す」や「し」は鳥にも虫にも多い。古歌に、「うくひずとのみ烏のなくらん」とあるが、「す」の字も鳴く声として聞きなしたものである」】

 「うゝうくひ」という表現は、長岡半太郎が『音幻論』の中で、長音記号のない時代の表現として指摘しており、「うーくひ」と鳴いていたと考えられている(『音幻論』,『ちんちん千鳥の鳴く声は』)。また、「うくひ」という鳴き声(聞きなし声)に、鳥や虫を示す「す」を付加して、鳥の名前としたといっている。
 一方、古歌では、「す」文字を含めて鳴き声として聞きなし、「うくひず」と聞こえるといっている。
 以上のことから、ウグイスの鳴き声語源説には、ウクヒ鳴き声説ウグヒス鳴き声説の二つがあることがわかる。

 なお、「うくひずとのみ鳥のなくらん」という古歌は『古今和歌集』に見られる和歌である。ウグイスの鳴き声語源説は、この和歌を拠り所としているが、物名歌であり、拠り所として使うには疑問を覚える。次章で説明する。

その1 ウグイスの語源説について
その2 ウグイスの語源説の問題について
その3 新しいウグイスの語源説と根拠について
その4 ウグイ・ウグイスガクレの語源について


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