鶯谷駅名の由来考

鶯に誘われてシリーズ

鶯谷駅名の由来考

1はじめに

 東京という大都会の中心地に、幽谷を思わせる鶯谷という駅がある。不思議な取り合わせであり、その妙に感興を覚える。

 鶯谷について、改めて『広辞苑』を引いてみると、「おうこく」という読みしかない。『日本国語大辞典』を引いてみると、「おうこく」と「うぐいすだに」の2つの読みがあることがわかる。
 「おうこく」については、中国最古の漢詩集であり、儒教の経典の一つとされる『詩経』小雅・伐木篇の漢詩「伐木丁丁、鳥鳴嚶嚶、出自幽谷、遷于喬木」を出典として、「ウグイスが谷にいること。また、その谷。転じて、世にまだ名も知られず、出世もし(てい)ないこと」、とその意味が記されている。
 初唐に鶯という漢字は鳥の名前として定着したといわれており、「おうこく」という言葉もその頃に定着し、平安時代に日本に伝来された(『詩歌の森』)、といわれる。
 一方、「うぐいすだに」については、「東京都台東区北西部、谷中五~七丁目の通称。かつては谷中の霊梅院付近の谷に鶯がおり、この名がついた。・・・」、とある。「谷中鶯谷」と呼ばれる鶯の名所である。 
 享保20年(1735)刊行の『続江戸砂子』に「小石川鶯谷」の名称が見える。また享保2年(1717年)刊行の『雲陽誌』には、『出雲国風土記』の法吉鳥(ほほきどり)が鎮座した場所を鶯谷(現松江市法吉町)としている。これらのことから、「うぐいすだに」という言葉は江戸時代に誕生した言葉で、「おうこく」に比べれば新しい言葉と考えられる。

 鶯谷駅が開業されたのは明治45年(1912)のことである。当時の鶯谷駅付近の地名は東京市下谷区上野桜木町、現在の台東区根岸1丁目である。駅名は土地の名前を採用することが多いといわれるが、その通例には従っていない。どういう経緯で名付けられたのであろうか。

 由来に関係のありそうな資料を探してみると、いろいろあるが、それらの中で、

  ① 鶯谷駅南口の「鶯谷の由来」の説明板
  ② 『東京下谷 根岸及近傍図』の鶯谷

という2つの興味深い資料が見つかった。

 ①は、地誌『江戸砂子』を引用しているが、「谷中鶯谷」を取り扱っているところから、明和9年(1772)に刊行された地誌『再校江戸砂子温故名跡志』であろうと思われる。『江戸砂子』に鶯谷駅の由来が記載されている筈もなく鶯谷駅の由来説としての典拠はもうひとつ明確ではない。
 ②は、明治時代の国語学者の大槻文彦の作成した根岸の案内図であるが、それには鶯谷としてほとんど知られていない、鶯谷駅の一帯がその場所として記されている。関連資料と照合して新たな由来仮説を模索してみたい。

  1. はじめに
  2. 鶯谷駅南口の説明板「鶯谷の由来」に基づく由来説
  3. 『東京下谷 根岸及近傍図』における鶯谷に基づく由来説
  4. 参考資料

   


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